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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(あ)1993号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人小野正広の上告趣意第一点は、原判示に副わない事実関係を前提とする違憲の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。すなわち、原判決は、本件登録証明書の呈示を求めたのは、被疑者が朝鮮人であることが判明したので、その居住関係及び身分関係を明確ならしめるという外国人登録法に基く必要からであって、刑事事件の捜査とは別個の職務行為としてなしたものであると判示している。しかのみならず、被告人の氏名のごときは、原則として、憲法三八条一項にいわゆる不利益な事項に当らないことは当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和三二年二月二〇日大法廷判決判例集十一巻二号八〇二頁以下参照)、刑事事件の捜査上氏名、住所を知るため外国人登録証明書の呈示を要求したとしても右憲法の条項に違反するものでないことは、右判例の趣旨に徴し明らかである。その余の論旨並びに被告人の上告趣意は、違憲をいう点もあるが、その実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであって、上告適法の理由にならない。また記録を調べても刑訴四一一条一号ないし三号を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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